夢現
言うべきこと
小さな部屋。
小さな窓。
小さな机。
小さな照明。
彼は、黙っていた。
向かい側には、苛立った男が座っている。
端には更に小さな机があり、壁を見る格好で1人の男が座る。
そこにはノートが広げられている。

苛立った男は声を荒げた。
『何とか言えよ』
彼は、黙ったまま男を見つめた。
心なしか、口の端が笑っているようにすら思える。
それが尚更男を苛立たせた。
『黙っていたって終わらないんだぞ?』
彼は、やはり何も話さない。

かれこれ、何時間こうしているだろうか。
殺人事件が起こり、今まさに取り調べを行っている。
けれど、彼は何も話をしない。
小さな机の上には、動かぬ証拠の品が置かれており、もう有罪である事は間違いない。
後は本人が罪を認めるだけだった。

『お前、自分の立場が分かっているのか?』
男は彼に怒鳴り散らす。
彼は表情を変えないまま、やはりじっと男を見ている。
『何かあるだろう、言うべき言葉が』
男は小さな机を叩いた。

彼がぴくりとも動かないので、男はガリガリと頭かきむしった。
そして、だんっともう一度机を叩いて頭を抱えた。
頭を抱えながら、暫く動かず、何も言わなくなった。
部屋の中は、男の荒れた呼吸以外、何の音も無い。

男は大きく息を吸い込んで、泣きそうな声を出した。
『俺がやりました』
彼は、にっこり笑って立ち上がった。
壁に向かっていた男が彼に『お疲れ様です』と声をかけた。
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