夢現
彼と話をする
時間が空いて、暇ができた。
特に用事はない。
久しぶりに、彼に電話をかけてみた。

『最近、どうだい?』
『別に変わりはないさ』
『まあ、それが一番だね』
『そうだと思うよ』

特に変わり映えのない、いつもの会話。

『何かいい話はないのかい?』
『最近、友人が増えたよ』
『どんな人だい?』
『人ではないね』

彼は社交的な人間ではないが、懐が広いせいか友人が多い。
数もさることながら、色々な経歴を持った人間がいる。
ただ、人でないのは初めてだ。

『人じゃなくて何なんだい?』
『吸血鬼らしいよ』
『何処で知り合ったんだい?』
『行きつけの店だよ』

気軽に飲みに行った先で、吸血鬼と友人になる。
何だか彼らしい気もする。

『映画や小説を見る限りでは、あまり友人になるのは勧められないな』
『初めは警戒したよ。でも吸血鬼は血じゃなくても水分だけで生きていけるらしいよ』
『それは初耳だな』
『人間だって、野菜や肉などを食べるだろう?そういうのと同じで、色々な水分をバランスよく取っているらしいよ』

実はにんにくや十字架は弱点じゃなかった。
そんなストーリーのものは多いが、実は水分なら何でも良かったというのは意外だ。

『でも、血を吸う事には変わりはないんだろう?』
『ああ。彼は、水しか飲まないらしいよ』
『人で言うところのベジタリアンみたいなものかい?』
『恐らくね』

水のみで生きられるというのは、中々経済的な体の作りだな。
だとしたら、あの牙はどうなんだろう。
そういう体の構造なら、あんな牙が生えているのは納得いかないな。

『見た目は人と同じなのかい?』
『見分けられないよ。あの牙は差し歯らしいよ』
『自然と生えてくるものだと思っていたよ』
『人にも色々な種族がいるだろう?耳に大きな穴をあけてピアスをしたり、首に沢山輪を入れて首を長くしたり、唇に皿を入れたり。それと似たようなものらしいよ』

なるほど。
特定の吸血鬼にある風習のようなものだったのか。
いやに実用的だけれど。

『吸血鬼さんとはよく会うのかい?』
『今日もこれから飲みに行くんだ』
『出がけに悪かったね。じゃあ、楽しんでくれ』
『ありがとう。またな』

電話を切って、珈琲を一口飲む。
やはり彼はいい奴だなと思う。
今夜は吸血鬼と出かけた先で、どんな友人を見つけるのだろうか。
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