まばたきの恋
「”一目惚れ”ってなんですか」
え、と虚をつかれた彼の手を肩から振り払った。
その瞬間、目の前の傷ついたような顔を気にする余裕はなかった。
七菜子は目の端を細めて、じっと睨みつける。
「俺も分かんないんです」
立ち膝で眉を下げた彼に、七菜子は苛立った。
「自分でも分からない感情を恋だと決めつけたんですか」
黒い感情を吐き出すように、七菜子は立て続けて言った。
「あたしのことからかってるの?だったら他をあたってください!」
「それは違う」
彼の目の色が変わる。反抗ではなく信念を持った眼差しだった。
はっとして七菜子は身をすくめると、彼は困ったように微笑んだ。
「聞いてくれる?俺の気持ち」
その優しすぎる表情は思わず逃げ出したくなるようなものだったが、拳を握りしめて小さく頷くと、彼は『ありがとう』と話し始めた。