まばたきの恋



「進路に悩んでた時に『大学の資料が図書室にある』って担任が教えてくれたんだ。


それでメモを受け取って探したんだけど、なかなか見つからなくてさ。


図書室なんて滅多に来なかったから、どこに何があるか分からなかったんだ。


活字がいっぱい並んでるの見たら、なんかうんざりしちゃったしね。


それでカウンターの子に聞いてみるのが、一番手っ取り早い方法だと思った。


その日カウンターに居たのが桐谷さんだったんだ」



そこで一息つくと彼は階段に腰掛け、もう一度続けた。



「奥の本棚からカウンターの様子を伺ってたら、司書の先生が入ってきて、桐谷さんに話しかけたんだ。


俺は出るタイミングを失って様子を伺ってたんだけど、なかなか楽しそうでさ。


桐谷さん本当に楽しそうに笑ったんだよ。


『可愛いなあ』って一瞬思ったんだ。


瞬きしたらもう、目が離せなくなってた。


上手く説明できないけど『この人の笑った顔好きだなあ』って思ったんだ」



それを最後に彼は黙りこんでしまった。


足の間を大きく広げて投げやりな姿勢だけれど、その口調はとても穏やかだった。



< 11 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop