まばたきの恋
「進路に悩んでた時に『大学の資料が図書室にある』って担任が教えてくれたんだ。
それでメモを受け取って探したんだけど、なかなか見つからなくてさ。
図書室なんて滅多に来なかったから、どこに何があるか分からなかったんだ。
活字がいっぱい並んでるの見たら、なんかうんざりしちゃったしね。
それでカウンターの子に聞いてみるのが、一番手っ取り早い方法だと思った。
その日カウンターに居たのが桐谷さんだったんだ」
そこで一息つくと彼は階段に腰掛け、もう一度続けた。
「奥の本棚からカウンターの様子を伺ってたら、司書の先生が入ってきて、桐谷さんに話しかけたんだ。
俺は出るタイミングを失って様子を伺ってたんだけど、なかなか楽しそうでさ。
桐谷さん本当に楽しそうに笑ったんだよ。
『可愛いなあ』って一瞬思ったんだ。
瞬きしたらもう、目が離せなくなってた。
上手く説明できないけど『この人の笑った顔好きだなあ』って思ったんだ」
それを最後に彼は黙りこんでしまった。
足の間を大きく広げて投げやりな姿勢だけれど、その口調はとても穏やかだった。