ダブルスウィッチ
この子に負けないように、自分も前を向いて歩かなきゃならないと彩子は思う。


「私も、あなたに教わったわ?

夢を持つ大切さと、ただ待ってるだけじゃなにも変わらないんだってこと

だから……今はあなたと出会えて良かったと思ってる

ありがとう」


まさか礼を言われるとは思ってなかったんだろう。


驚いたように目を丸くするえみりに、彩子はスッと右手を差し出した。


一呼吸置いてから、えみりもまた右手を差し出し握手する。


「それじゃあほんとにいいのね?」


念を押すように彩子がそう言うと、えみりは「はい」と力強く頷いた。


もうこれでお互いに思い残すことはない。


そんな気持ちで二人は店を出た。


時計はもうすぐ8時になるところだ。


「それじゃあ、彩子さん、頑張ってくださいね?」


きっとえみりのいう頑張ってとは、今夜のことじゃない。


これからの彩子と亮介の関係について言ってるのだろう。


「えみりさんこそ、ライブ頑張ってね?

応援してるわ……たぶん、亮介さんも」


だから彩子はあえて伝えた。


亮介はきっと、えみりを応援しているはずだと思ったから。


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