ダブルスウィッチ
抱くつもりなのかもしれない。


えみりの中の複雑な思いに拍車がかかる。


きっとえみりとの最後は、体を重ねることなく終わったのだ。


そうでなければ、同じ夜に二人の相手など出来るはずもない、と。


このまま亮介とそうなれば、忘れられなくなるかもしれない、とも思う。


そんなえみりの気持ちなど知る由もない亮介は、頬に触れていた手を滑らせるようにして今度は髪を撫でた。


「……彩子……今まで悪かった

こんな風にいつも俺の帰りを待ってたんだな?

俺は……ずっとお前も俺と同じだと思ってたんだ

契約だけで結ばれた割り切った関係なんだと……

俺に触れられるのも嫌なんだと思ってた

だから、子供は論外だったんだ

そんな親に育てられた子供は不幸だと思ったから……

彩子が子供が欲しいって言ったときも、ただの契約違反だとしか思えなかった

俺のことを……まさか今朝言われたみたいに好きだからだなんて考えもしなかったから

ただ自分のアクセサリーか何かのつもりで欲しいって言ってるんだとばかり……」


えみりは何も答えなかった。


亮介が今見ているのは彩子なのだ。


自分が彼に言えることなどもう何もないとえみりは思う。


ただ亮介の告白を黙って聞きながら、彩子に歩み寄ろうとしている亮介を見つめていた。

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