ダブルスウィッチ
どう断ろうか?などと考えていた自分が恥ずかしくなる。

亮介は実に淡々と、今までのことなどまるでなかったかのように、ドアの側に立ったまま言った。



「えみり……今日で会うのは終わりにしよう

妻にバレたんだ

最初に話した通り、僕は妻と別れるつもりはない

だからもう……会えない」



ベッドに腰掛けていた彩子は、そんな亮介の言葉をどこか他人事みたいな感覚で聞いていた。

亮介はもうえみりとは会わないと言った。

妻とは別れないとも。

本当なら嬉しいはずの言葉が、なぜかうまく彩子の心に響かない。

そのくらい、言葉とは裏腹に亮介の表情が辛そうに見えたからだ。

返事をしないまま見つめるえみりに、亮介はさらに言葉を重ねていく。



「会えなくなっても、僕はきみをずっと応援している

だから、夢を成功させるために頑張ってほしい」



彩子の意思とは関係なく、涙が目尻からこぼれ落ちた。

この感情はなんなのだろう?

悲しいのとも違う、不思議な感覚。

そんな姿を見て、亮介はようやく一歩えみりの方へと歩み寄った。

ベッドに座ったまま微動だにしないえみりの前で立ち止まり、そっと大きな手をえみりの頭に乗せる。







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