ダブルスウィッチ
けれど亮介には知られたくなかった。

完璧な妻という立場にこそ、自分は価値があるのだ。

体調のせいで家事を疎かにするなどもってのほかだし、疎かにするつもりもないと彩子は決めていた。

自分で選んだ道はそういうことなのだ。

えみりを遠ざけた分の責任は取らなくちゃならない。

彼女が夢を叶えれば、亮介もきっと喜ぶのだろう。

けれど自分は?と彩子は思う。

自分が亮介を喜ばせるとしたら、家を守ることしかない。

夫の出世のためにひたすらつくすこと、それが自分にできる唯一の……


そこまで考えて、彩子はハッとした。

変わってないのは自分だけだ、と。

えみりがこんなにお膳立てして彩子と亮介を普通の夫婦にしてくれようとしていたというのに、入れ替わる前となにも変わっていない。

体調が悪ければそう訴えればいいのだ。

食事を作るのが辛ければ、なにか買って来てもらったっていいのかもしれない。

けれど普通の夫婦なら当たり前のことも、彩子には高いハードルに思えた。

もしそれで嫌な顔をされたら?

そう思うと怖くなる。

せっかく手に入れたあの笑顔を、優しいキスを失いたくなかった。

なにもなかった頃よりも、それはいっそう強くなっている。





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