ダブルスウィッチ
抱きながらしばらく歩くと、地下鉄の入口が見えた。


階段を注意深くゆっくりと降りてポケットからICカードを取り出す。


一度立ち止まってえみりを抱えなおしてから、改札を抜けホームへ続くエスカレーターに乗った。


すぐに電車がホームに入ってくる。


ラッシュの時間よりは少し早いからか、車内はそれほど混雑していない。


彩子はホッとしながら、ドアが開いてすぐの椅子にえみりを抱いたまま腰掛けた。


電車がゆっくり走り出すと、温かな空気と程よい揺れが、彩子の瞼を閉じさせる。


トントンとえみりの背中を優しくさすりながら、彩子はゆっくり目を閉じた。


瞼の裏に浮かぶのは、ついさっき見たばかりの美しいえみりの姿。


彼女は手紙を読んでくれただろうか?


彩子の思いを受け止めてくれただろうか?


彩子は昨夜何度も書き直したえみりへの手紙の内容を思い返す。


えみりには、もう過去にとらわれずに未来に向かって羽ばたいてほしい。


それは彩子の嘘偽りのない気持ちだ。


彼女への感謝の気持ちも幸せを願う気持ちも、この5年ずっと抱き続けてきた彩子の変わらない思い。








< 258 / 273 >

この作品をシェア

pagetop