ダブルスウィッチ
家持ちで親のいない彼との結婚は、妹からしてみれば憧れ以外のなにものでもないのかもしれない。


『子供なんかいなくたって、そんな暮らしが出来るならいいじゃない』


三人の子育てと親の面倒に明け暮れる妹にとっては、きっと本当に羨ましいことなんだろう。


けれどその言葉をきっかけに、彩子は実家に寄り付かなくなった。


本当は子供が欲しかったのだ。


それを拒絶された彩子の気持ちを、誰がわかってくれるのだろう?


拒絶されて、挙げ句の果てには指一本触れてくれなくなった彩子の寂しさを、誰がわかってくれるのか?


子供たちがギャーギャーうるさいと嘆く妹は、それが賑やかで幸せなことなのだと気づいてない。


シーンと静まり返った部屋に一人取り残された彩子の気持ちなど、知るよしもないのだ。


ましてや、夫が外で何をしているのか知っていて、帰りを待たなくてはならない悔しさなど、妹にわかるはずがない。


だから彩子は孤独と戦いながら、無駄に広いこの家の中で、ただただ一人で過ごしている。


また鳴るだろう電話の電子音だけが、彩子を人間らしくさせてくれる唯一のものだった。


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