ダブルスウィッチ
ベッドで眠れない夜を過ごしていると、日付を跨いですぐにドアが開いた音に気付いた。


ほんの少しだけでも、彩子のことを考えてくれたのかもしれないと思うと嬉しかった。


その日の朝、嫌味のように口をついて出てしまったセリフ。


『今日も遅くなるの?』


それを気にして早く帰ってきてくれたなら、少しは脈があるのかもしれないと彩子は思う。


シャワーは相変わらず浴びなかったけれど、それでもそのまま眠ってしまうほどには安心できた。


けれど次の日、洗濯をしようと彼のワイシャツを手にしたとき、そんな安心はどこかへ消えてしまった。


カゴに出された見慣れたワイシャツの胸ポケットから出てきたのは、女物のピアス。


ごくごくシンプルなデザインのそれは、ポケットの底に沿ったように入れられており、だから亮介も気づかなかったのかもしれない。


明らかに浮気相手からの挑戦状だった。


無言電話だけじゃ足りなくなったのかもしれない。


彩子に自分の存在をアピールしたいのが見え見えだった。


その小さなピアスを親指と人差し指で摘まみながら、彩子は薄く笑っていた。


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