ダブルスウィッチ
読み終えて一息つくと、さっき運ばれてきたばかりのミルクティーを一口飲んだ。


カップを置くときにカシャンとソーサーと触れ合う音がする。


木目調の真新しい店内は、流行っているらしく賑やかだ。


東京には珍しい喫茶店のチェーン店。


名古屋が本店だと言うだけあって、小倉トーストなんかも置いてある。


家族連れもちらほら見えて、子供の鳴き声も耳に入った。


彩子は場違いな気がしていた。


こんな場所でこんなものを読まされて、納得したらサインしろなどと、どう考えてもおかしい。


けれど、そんな気持ちを押し退けて、彩子の指は勝手に動いていた。


添えられていた万年筆は、黒く艶やかで男の人が持つからなのか、どっしりと重厚感がある。


スラスラと自分の名前がインクで形になっていく。


自分が何をしているのか、何でこんなことを受け入れようとしてるのか、彩子は信じられない思いで、そのインクの文字をじっと見つめていた。


ふいに伸ばされた彼の大きな手が、彩子の前にあった紙と万年筆を回収していく。


< 7 / 273 >

この作品をシェア

pagetop