ダブルスウィッチ
待ち合わせの一時まで、まだあと一時間ある。
彩子は壁にかけられた、この部屋の中で唯一気に入っている木製の時計をチラッと見た。
イタリア製の時計だというそれは丸い形をしており、文字のある外側が焦げ茶色の木で出来ている。
秒針のある真ん中だけが薄いベージュのような色になっていて、なんとなくホッと出来るデザインだった。
いつも落ち着かない部屋の中で唯一の……
姿見の前で自分の姿をチェックしながら、彩子はそんなことを思った。
20代の若い愛人とこれから会うのだ。
大人の魅力を見せつけたい反面、老けて見られるのも嫌だった。
かといって、あまり気張った格好もみっともない。
彩子はとろみのあるカジュアルな白のブラウスに、チャコールのクロップドパンツを合わせる。
春っぽく黄色地にペイズリー柄の入ったストールを首に巻いた。
5月の連休を過ぎると、グッと暖かくなり陽気もいい。
少しヒールの高いパンプスを履けば完成だ。
セミロングの髪は無造作にまとめて後ろでとめた。
化粧も薄めに仕上げて、彩子はゆっくりと玄関に向かった。