ダブルスウィッチ
彩子の真剣な眼差しに、えみりの瞳は悲しげに揺れた。


スッと彩子から目を逸らすと、気まずそうに下を向く。


「いえ……私の方こそ……すみませんでした

こんなこと言える立場じゃないのに……」


この子も、限界がきてるんだと彩子は思った。


自分と同じように、亮介に必要とされたいと思ってる。


彩子は体を……


そしてえみりは体以外のなにかを……


それぞれの足りない部分が不安で仕方ないんだと思う。


彩子の場合は不安とはまた少し違うのかもしれないけれど……


「今日はこんなところまで来てくれてありがとう

会えて良かったわ

亮介が夢中になるのも無理ないわね?」


フッと笑みを見せれば、えみりの顔が歪んでいく。


下を向いていても、泣いてるんだってことはわかった。


彩子ももっと違った形で亮介に会っていたら、えみりのように純粋に好きだと言えたのかもしれない。


好きとか愛してるなんて言葉を、彩子は一度も亮介と交わしたことがないんだと、えみりを見ていて気づいた。


亮介と夫婦になりたいと思っているえみりは愛人にしかなれずに、愛人でもいいから亮介に愛されたいと思っている彩子には離婚が許されていない。


彩子はえみりを眺めながら、皮肉なもんだと苦笑した。


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