キスの意味を知った日

自信あり気な櫻井さんの言葉に甘えて、そそくさと席に帰る。

正直、櫻井さんの助け舟には大いに助けられた。

あのまま孫自慢に入っていたら、卒倒寸前だった。


「お疲れ~」


ヘロヘロと席に戻ってきた私を見て、美咲がニヤニヤと笑って私を迎え入れてくれる。

その隣に腰かけて、深い溜息を吐いた。


「仕事より疲れたよ」

「瑠香、無駄に愛想笑い上手いからね」


ケラケラ笑う美咲に、じっとりとした視線を送る。

すると、ピッチの早い美咲のグラスに、一生懸命日向がお酒を注いでいた。

パッと見、オッサンとコンパニオンだ。

それでも、日向の持っているグラスがオレンジ色な事に気が付く。


「あれ?  日向は飲まないの? それオレンジジュースでしょ」

「はい! 今日は……その、遠慮しておきます」

「今日はって……体調でも悪いの?」


今日こそ飲まなきゃいけないのに。

お酒好きの日向が珍しい。


「いえいえ!! そんなんじゃありません! ただ……今日は止めときます」


そう言って、はにかむ様に笑った日向。

なんだか意味ありげな感じだったけど、深くはツッコまなかった。
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