地方見聞録~人魚伝説譚~
わずかな水音を響かせながら、海面から半身をあげたのは、見事な美貌の男。
しかし男はただ美しいだけではない。そう――――武装していた。男、その名もハレンは唇を噛む。
―――助けてもよかった。
だがあの時助けたとしても、"彼女"は村の者を救おうとする。それは危険だ。捕らえられ、運ばれるならばまだ……。
海に浮かぶ船で人をさらうつもりなのか。あるいは―――。
ハレンは再び水中へ潜った。
急がなくては。
そう、"彼女"はまだ無事だろうが、他は……。
不吉な考えを振り切るように、ハレンは泳ぎはじめた。
* * *