地方見聞録~人魚伝説譚~






 夜は深まっている。

 そんな時間に村へ入り込んでからは早かった。
 夜番の者が鐘を鳴らした時には船はすぐそばに迫り、弓矢が放たれた。

 鐘の音は止まるが、気づいた者は家をとび出す。





「エノヒ様!」

「賊が――――」





 エノヒはすぐさま子供達の無事を命じるも時すでに遅く。
 聞けば放たれた扉の影は刃をかかげる。

 拒絶しようものならば切る。刺青やがたいの良い男たちの目だけが異様に光を帯びているように見えた。
 それでも村の男たちは激しく抵抗し、負傷している者もいる。縄で縛られている中に、腕から血を流している者もいる――――。


 何故生かしているのか、エノヒは己に突き付けられている刃の切っ先を見ながら思う。





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