Sion




居づらかったはずの空間が今は毎日行くのが楽しい。
希愛自身を知ろうとしてくれる那由汰の優しさはとても温かく、どこか懐かしい感じがした。




この感じを希愛は覚えている。
それはずっと昔、5年以上前のことだ。




年を重ねるごとに薄れる記憶。
その中にもハッキリとくっきりと残っている。




だがその記憶は思い出そうとすると頭が痛くなる。
思い出すことを拒むかのように。
思い出すのが怖いからかもしれない。




あの出来事から何もかも希愛の心は崩れていった。
自分を見る人の目は恨んでいるようにも憎んでいるようにも見えた。




潤む涙腺を止めることはできなかった。
理解出来たのは希愛がいた事で傷ついた人がいたこと。
そして―――大切な『彼』を失ってしまったこと。




希愛は今まで思い出していた記憶を頭を振って消そうとする。
これ以上思いだせば、引き返せなくなるような気がした。




揺らいでいる心を特別棟から流れるメロディーが優しく包み込む。
希愛はそのメロディーに吸い寄せられるように、キィッと特別棟の重い扉を押した。




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