白夜
「肝狩りがあると聞いて血の気でもたったかい」
短髪がケラケラ笑いながら言った“肝狩り"とは城下狐族へ対抗心を持つ衣族の反乱を抑えるため狐族が衣族の山まで行き、村を荒らし、子供の肝だけ食らって帰ってくることだ。
“戦"という奴もいる。
今この賑わう酒場にいるほとんどの奴らは、今夜ある肝狩りに参加する輩だ。
もちろんこの短髪男、雷雨もだ。
「俺ぁそんな醜いこたぁしねぇ。」
龍と呼ばれる男が小さく言った。
「さすが龍兄ね」
どこへ行ったかと思っていた龍桜が皿を拭きながら、奥の個室のドアを開けた。
無駄に煙草臭いその部屋はもう何年も放置されたように誇りにまみれていた。
「龍桜か・・・まだこの腐った酒場を宿にしてんのか。」
龍がそう言うと龍桜は雷雨と話していたエロティックな雰囲気をいっさい見せず、甘々と言った声や表情で龍に笑いかけた。
「龍兄こそ酷いわ、一年近く家を空けといて連絡もしてこないんだもの。それにあたしはここで働かせていただいてるのよ?」
「この腐れた酒場で、ねぇ。俺の妹も落ちたもんだ。」
そう言って龍は龍桜の横を通り抜け広いカウンターの一番端に腰を下ろした。
「働いてるなら客に酒でも出したらどうだ。なぁ、妹」
はいはいといった様子で龍桜は龍に焼酎を注いだ。
しかし、龍と龍桜は兄弟らしい。
しかも龍はかれこれ一年近く家にいなかったらしいのだ。
「龍、腐った腐ったっておめぇ。肝狩りに出る為でもなくいきなり帰ってきて置いて、妹の稼ぎ場の悪口はねぇんじゃねぇか?」
今まで兄弟のやりとりを見ていた雷雨も話に入ってきた。
「そうよ、龍。雷雨も言うように肝狩りに出ないなら何で戻ってきたの?」
龍桜はカウンターに身を乗り上げで興味深々と言った様子だ。
「武器屋に用があったんだ。城下唯一の武器屋、剛力のじじぃはまだ生きてんのか」
龍はどうやら武器が欲しいようだが全く口が悪いもんだ。
雷雨が呆れて席を外した。
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