メインクーンはじゃがいもですか?
ん? やっと寝たか?
シートに座る葵の顔を覗き込んだ霧吹の目が大きく開かれた。
してやったりだ。
葵は一瞬の隙をついて、霧吹の唇を奪ってやった。
普通は男から奪いにかかるものだが、何も知らない、何の経験もない葵から奪うとはなんたることか、こんなことはきっと覚えてすらないだろう。完全に出来上がっているんだから確実に覚えていない。でも、奪ってやった。
ぷはっと唇を放す葵の目は、夜の猫の目のように真っ黒がかって妖しく輝いていた。
「……てめぇ、調子乗りやがってこの野郎。よくもやってくれたなぁ」
下を向いて肩を揺らして笑う霧吹は、顔を上げると……さかりのついたボス猫の顔に早変わりしていた。いや違う。それはボスザルの貫禄と言ったほうが言葉がいいか。
「どうなってもしらねーぞ」
葵の腕を無理矢理自分の方に引き寄せると、顎をぐいっと乱暴に上げ、びびる葵はさておき、派手やかな女遍歴で育んだその手腕を惜しみなく発揮した。
『だからぁ、初めての子に霧吹さんはきっついですってば』
と、赤パンツのすだれ女子に言われたことを頭の片隅で思い出すが、背中に消えない色鉛筆でお絵かきされている虎と、頭の中に住んでる大虎がその言葉をしゅぱっと噛み切った。
全身に力をこめてびびりまくっていた葵はだんだんと脱力していき、最後には虎に食べ尽くされそうになった。
それから徐々に体が熱くなっていくのが分かった。と、そこで霧吹邸に到着した。