契約彼氏-ニセ彼氏-
西日を受けて輝く新宿のビル群―。
丸の内線を降りた私は地上に出て、回転ドアに体を滑り込ませる。
午後のシティホテルは静かな喧騒に包まれていた。
ロビーの一角にはフロントがある。
私が予約した名前を告げると、私くらいの娘がいそうなホテルマンは、「松嶋様、ダブルのお部屋、本日から1泊ですね?」と静かな笑顔で鍵をくれた。
これで舞台は整った。
私は和樹にメールを打つ。
『今着いたよ。ロビーで待ってるね。早紀』
「送信完了しました」の文字を見たら、急にトイレに行きたくなった。
ロビーを横切る私。
その脇を子供が元気よく駆けて行く。
私は咄嗟に身を硬くした。
「ママー、あの人、おばあちゃんみたい!」
以前、通りすがりの子供に言われた残酷な言葉が蘇える。
杖を握る手が、いつの間にかジットリと汗ばんでいた。