Temps tendre -やさしい時間-
 ふたりは学校を後にし、こずえの家へ向かった。
 
 クリスマスソングがはっきりと聞こえてくるようになった頃、こずえの母の店が見えてきた。

「ここ」
 
 こずえが店のドアを開けるとカランカランとドアベルが鳴った。

「お帰り!」と元気のいいこずえの母の声が聞こえた。

「入って」

 こずえはその人に言った。

 その人は少し緊張した顔でこずえの後をついて行くと、店の奥に案内された。

「ここが厨房で、その奥が家になってるの。どうぞ」

 こずえはその人を家のリビングのソファーに座るように言い、冷蔵庫から自分が作ったケーキを出して来た。
 そして、身体が冷え切っていたので、暖かいアップルティーを入れた。

「これ、すごくデカイ」

 こずえの作った三段重ねの苺のショートケーキは普通のサイズよりも大きかった。

「だって、人生最後だと思って……あ、お母さんには今日のことは内緒よ」

 慌ててこずえはその人に小声で言った。

「ああ」

 こずえはケーキを切り分けて皿に移し、カップにアップルティーを注いだ。
 部屋中にいい香りが漂い、こずえは幸せそうな笑顔になっていた。

「マジでケーキが好きなんだな、お前」

「うん。好き」

 こずえはケーキを見てさらに笑顔になった。

「あ、どうぞ。食べて感想聞かせて」

「ああ」

 その人はフォークで一口サイズにし、口の中へケーキを運んだ。

「うん。うまい」

「ほんと?」

 こずえはその言葉で最高の笑顔になった。

 その人はこずえの笑顔を見てうれしい気持ちになり、思わずこずえの頭をくしゃくしゃっとした。


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