薇姫/獣帝
鼻腔をくすぐる落ち着く匂い。
『…………來哉、……』
ガクッと私に体を預ける來哉。
胸のあたりに生温かい物がしっとりと渡っていく。
『…………ら、いや…?』
目を見開いて腹部あたりから流れ出る赤い液体を見た。
「、いってー…」
「咲夜‼真弓呼べ‼」
怜央の焦った様な声が遠くにあるように聞こえる。
『…………ら、ぃ…』
「…………つけろよ、ケジメ」
フッと微笑んで私の頬にキスを落とした。
暖かい感触と閉じていかれる蒼い瞳に心臓が暴れた。
『…………っーーーーー』
また、だ。
また、傷つけた。
何人目だ?
私は、最低だ………
今にも溢れ出しそうな想いを唇を噛んで耐える。
…………これは、後だ。
後…………
今、私がする事は、
ケジメなんだ。
「ああああぁぁああ」
『っ………‼』
「琉稀‼」
目の前には、涙で歪んだ表情に目の焦点が合わず泳いでいる瞳で私を見下す、佐野。
その手には拳銃ではなく、さっきのナイフ。
「お前等が…………お前等が…………っ」
佐野の目から零れ落ちる涙は私の頬に次々と伝っていく。
その泣き顔に、何かがプツリと切れた気がした。