僕と煙草
僕と煙草
休憩時間になると、ガラス張りの喫煙室に人が集まる。


先月から煙草の値段が急激に上がったせいか、吸いに来る人達も減り、今では数人しか見かけなくなった。


僕はまったく吸わない。

吸わないけど喫煙室にたまに行く。

お目当ては煙草ではなく煙。


「好きな煙が減って物足りないだろう」
と、軽快に笑い僕に煙を吐く。


真っ白い煙の中、面白げにその煙を僕は掴む。


今日は上司と同僚と僕の男性三人しかいなかった。


同僚は煙でハートの形や途切れた煙を作ったり、見て楽しめる技術力がある。


たかが煙草の煙、とバカに出来ない。


これを見に来ていることもあるけど、もう一つ理由がある。



それは――…



「なぁ、お前って煙草吸わないくせに煙好きって変わってんな。普通煙くて嫌がるもんだぜ」


僕の顔に近づき豪快に煙を吐き出して笑う上司につられてか、同僚も煙を吐きかける。


二人から煙を浴びせられ、僕の身体は煙草の臭いに犯されていた。


不思議がる上司に満面の笑みで、
「煙草の匂いが僕の身体に移ると、気持ちよく感じるから好きですよ」
と答えると、二人は「え?」と呟き興味深く僕を見た。


「匂いが消えるまでの間は、まるで、その相手を感じているようで……楽しい気持ちになります」


感想のようなものだけど、なぜか二人はゲホゲホと噎せて頬を赤らめていた。


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