主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
床を敷く間もなく愛し合い、暗闇でも恥ずかしがる息吹のために身体に着物をかけてやった主さまは、息吹の指に指を絡めて飽きることなく見つめていた。


そして片時でも息吹と離れ離れになっていたことをまた激しく後悔したし、離縁の話が出るほどに息吹を悲しませていた自分自身を情けなく思う。


「…息吹…お前に話が……」


「うん、ちょ、ちょっと待って、畳の上だと身体が痛くて…」


「!す、すまん」


身体を起こした息吹が着物を雑に纏い、主さまはその間目を逸らしていたが、息吹は押入れを開けてそこから布団を取り出すと床に敷いてころんと寝転んだ。


「主さまの匂いがする」


「…お前の匂いがする」


「違うよ主さまの匂いだもん。ねえ、何を言いかけたの?」


息吹に誘われて床に移動した主さまは、息吹の腕を引っ張って布団の中に引きずり込むと、細い手を心臓の上に導いて耳元で囁いた。



「…ここが止まってしまうんじゃないかと思った。俺はもう…お前が居なければ駄目だ。生きていけない」


「主さま…。私もね、父様のお屋敷で暮らしてる間、父様と居られて嬉しかったのと同時に主さまのことがずっと頭から離れなくて…このまま離縁になっちゃうのかなって考えると涙が止まらなくて…今思い出しても涙が…」


「離縁という言葉はもうこの瞬間から二度と使わない。俺はお前が傍に居てくれるのならばなんでもする。…これからもこうして夜一緒に居られない生活が続くと思うが、耐える。いつか子ができたら…」


「うん、隠居してずっと一緒に居られる日を待ってます。あ、これね、地主神様に頂いた手拭いで作った腹巻なの。お腹にあててるとなんか気持ちいいんだよ」



誘惑してくる主さまからなんとか逃れた息吹は手を伸ばして腹巻を引き寄せてお腹の上に乗せた。

するとやはり何か温かい波動のようなものが伝わってきて主さまにも感じてもらおうと手を乗せてもらったが…主さまは首を傾げるばかりでその波動を感じていないようだった。


「お前にしかわからないのかも。それより息吹……」


またしないか、とこそりと囁いてきた主さまは若者のように急いていて、抱きしめられた息吹はその腕から逃れることができずに観念して熱い主さまの胸に頬を寄せた。


「主さま…すごくどきどきしてる」


「…十六夜、と呼べ」


「……十六夜さん…」


息吹に名を呼ばれると血が騒ぐ。

息吹にしか、できないこと。
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