主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
離縁なんか、絶対したくない。
何度も何度もここから脱出しようとしたのに、その度にあの女が…椿姫がその身体を…いや、肉を武器に誘惑してくるのだ。
…もう息吹以外の女は抱かないと固く決めていた。
だからこそ、椿姫自身に興味はなく、だがその甘く熟れた味から…逃れられなかった。
「息吹…俺が悪かった。だが…俺の話を聞いてくれ。お前と離縁したくない。だからちゃんと話を…」
「十六夜様」
真の名を呼ぶことを許していない椿姫に2度も名を呼ばれた主さまは怒り狂った瞳で振り向くと、椿姫は首を竦めて怯えながら扉を閉めた。
その時――息吹から嗚咽が聞こえてまた近付こうとしたが、晴明が爪を尖らせて威嚇してくる。
息吹はこちらを見ようともせず、主さまはなんとか状況を理解してもらおうと言葉を詰まらせながら話した。
「あの女とは男女の仲じゃないんだ。息吹…俺にはお前だけなんだ。わかってくれ。息吹……」
「……例えそうだとしても…きっとまた女の人絡みで私は悩むと思うの。それに主さま…1ケ月も帰って来なかった…」
「…息吹…帰ろうとしたんだ!だがあの女が…っ」
「もういや!私もう悩みたくない!私もう……耐えられない…。主さま…もういいの。私を楽にさせて。主さまのこと…すっごく好きだったよ。今まで…大切にしてくれて…ありがとう」
「待ってくれ…そんな別れの言葉みたいなことを言わないでくれ…!」
顔を上げた息吹は、目を腫らしながらも晴れ晴れとしているように見えた。
手を握って離さない晴明に小さな笑みを向けて自身の脚でしっかり立つと、着物の袖で鼻を押さえながらそれでも涙声で主さまを非難する。
「主さま…人を食べたでしょ」
「…!何故…それを……」
「気付いてないの?すごく血の匂いがするの。お腹の子にも悪いから…これ以上近付かないで」
――息吹にそう言われるまで気付いていなかった主さまは、息吹に図星を突かれてまた言葉を詰まらせる。
真正面に佇んでいる息吹はやつれていてもとても美しくて可愛らしくて…息吹しか考えられないと今でも声を大にして言えるのに。
「人はもう食べないっていう約束を破ったし、1ケ月も帰って来なかったし、女の人と…一緒に居た。私もう…主さまを待っていたくない。…今夜幽玄町を出て行きます。もう…主さまには会いません」
「そんな…息吹…!」
これはきっと悪い夢なのだろう。
これはきっと…すぐ覚める夢のはず。
だがそれは願望でしかなく、現実に起きている悪夢に呑まれた主さまは、ただただ呆然と息吹を見つめていた。
何度も何度もここから脱出しようとしたのに、その度にあの女が…椿姫がその身体を…いや、肉を武器に誘惑してくるのだ。
…もう息吹以外の女は抱かないと固く決めていた。
だからこそ、椿姫自身に興味はなく、だがその甘く熟れた味から…逃れられなかった。
「息吹…俺が悪かった。だが…俺の話を聞いてくれ。お前と離縁したくない。だからちゃんと話を…」
「十六夜様」
真の名を呼ぶことを許していない椿姫に2度も名を呼ばれた主さまは怒り狂った瞳で振り向くと、椿姫は首を竦めて怯えながら扉を閉めた。
その時――息吹から嗚咽が聞こえてまた近付こうとしたが、晴明が爪を尖らせて威嚇してくる。
息吹はこちらを見ようともせず、主さまはなんとか状況を理解してもらおうと言葉を詰まらせながら話した。
「あの女とは男女の仲じゃないんだ。息吹…俺にはお前だけなんだ。わかってくれ。息吹……」
「……例えそうだとしても…きっとまた女の人絡みで私は悩むと思うの。それに主さま…1ケ月も帰って来なかった…」
「…息吹…帰ろうとしたんだ!だがあの女が…っ」
「もういや!私もう悩みたくない!私もう……耐えられない…。主さま…もういいの。私を楽にさせて。主さまのこと…すっごく好きだったよ。今まで…大切にしてくれて…ありがとう」
「待ってくれ…そんな別れの言葉みたいなことを言わないでくれ…!」
顔を上げた息吹は、目を腫らしながらも晴れ晴れとしているように見えた。
手を握って離さない晴明に小さな笑みを向けて自身の脚でしっかり立つと、着物の袖で鼻を押さえながらそれでも涙声で主さまを非難する。
「主さま…人を食べたでしょ」
「…!何故…それを……」
「気付いてないの?すごく血の匂いがするの。お腹の子にも悪いから…これ以上近付かないで」
――息吹にそう言われるまで気付いていなかった主さまは、息吹に図星を突かれてまた言葉を詰まらせる。
真正面に佇んでいる息吹はやつれていてもとても美しくて可愛らしくて…息吹しか考えられないと今でも声を大にして言えるのに。
「人はもう食べないっていう約束を破ったし、1ケ月も帰って来なかったし、女の人と…一緒に居た。私もう…主さまを待っていたくない。…今夜幽玄町を出て行きます。もう…主さまには会いません」
「そんな…息吹…!」
これはきっと悪い夢なのだろう。
これはきっと…すぐ覚める夢のはず。
だがそれは願望でしかなく、現実に起きている悪夢に呑まれた主さまは、ただただ呆然と息吹を見つめていた。