主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
悪い妖だと思い込もうとしている椿姫。
所々に口調に酒呑童子への愛情が感じられて、息吹はまたつらそうに息を吐いて首を振った。
「自分を騙しちゃ駄目。あなたは今でも酒呑童子さんが好きで…ここに来てほしいんでしょ?酒呑童子さんがもうあなたを絶対食べないって言ったらどうしますか?また一緒に暮らしたいと思う?」
「そんなことはあり得ません!あれは鬼で…人を食べないと…」
「それは違います。主さまは鬼だけど、ずっと人を食べずにきました。強い妖は人を食べなくても大丈夫なんです。…結果的には…主さまはあなたを食べてしまったけど…」
部屋の片隅に座っていた主さまは、息吹との約束を破ってしまった罪の重たさに身体が沈みそうになっていた。
伏し目がちに苦笑している息吹の横顔は悲しげで――
どうして強い理性を持って椿姫を拒絶できなかったのだろう、と後悔の念が競り上げてくる。
その間にも、息吹は断固とした口調で椿姫に訴えかけていた。
「あなたを取り戻すためにきっとここに来ます。そうなると…主さまが守ってきたこの町は壊れてしまうかもしれない。私はそれがいやなんです。だから…」
顔を上げた息吹は、真っ直ぐな眼差しで椿姫を射抜いて背筋を伸ばさせた。
「あなたにはここから出て行ってほしい。お願いします」
「……私は……邪魔ですよね…そうですよね…」
「違います。あなたがあの神社に戻れば、酒呑童子さんは必ず戻って来るはず。…主さまは本来争いを好まない人なんです。早く隠居してのんびり暮らしたいっていつも言ってたもの」
――また強く胸を打たれた。
息吹が自分のために考えてくれた案は…主さまも密かに考えていたことだ。
だがそれにも増して、離縁を申し出て来たとはいえ自分の心情を理解してくれていること…それが、とても嬉しい。
椿姫は、両手で口元を覆うと何度も首を振る。
息吹も対抗するように何度も首を振って、酒呑童子を憎もうと努める椿姫を諌めた。
「あなたは神社に戻って下さい。もしまた食べられそうになったら…主さまに守ってもらって下さい。お願いします」
「息吹さん……」
息吹が頭を下げる。
主さまは、抑えきれない愛情を胸に押しこめるようにして、うずくまった。
所々に口調に酒呑童子への愛情が感じられて、息吹はまたつらそうに息を吐いて首を振った。
「自分を騙しちゃ駄目。あなたは今でも酒呑童子さんが好きで…ここに来てほしいんでしょ?酒呑童子さんがもうあなたを絶対食べないって言ったらどうしますか?また一緒に暮らしたいと思う?」
「そんなことはあり得ません!あれは鬼で…人を食べないと…」
「それは違います。主さまは鬼だけど、ずっと人を食べずにきました。強い妖は人を食べなくても大丈夫なんです。…結果的には…主さまはあなたを食べてしまったけど…」
部屋の片隅に座っていた主さまは、息吹との約束を破ってしまった罪の重たさに身体が沈みそうになっていた。
伏し目がちに苦笑している息吹の横顔は悲しげで――
どうして強い理性を持って椿姫を拒絶できなかったのだろう、と後悔の念が競り上げてくる。
その間にも、息吹は断固とした口調で椿姫に訴えかけていた。
「あなたを取り戻すためにきっとここに来ます。そうなると…主さまが守ってきたこの町は壊れてしまうかもしれない。私はそれがいやなんです。だから…」
顔を上げた息吹は、真っ直ぐな眼差しで椿姫を射抜いて背筋を伸ばさせた。
「あなたにはここから出て行ってほしい。お願いします」
「……私は……邪魔ですよね…そうですよね…」
「違います。あなたがあの神社に戻れば、酒呑童子さんは必ず戻って来るはず。…主さまは本来争いを好まない人なんです。早く隠居してのんびり暮らしたいっていつも言ってたもの」
――また強く胸を打たれた。
息吹が自分のために考えてくれた案は…主さまも密かに考えていたことだ。
だがそれにも増して、離縁を申し出て来たとはいえ自分の心情を理解してくれていること…それが、とても嬉しい。
椿姫は、両手で口元を覆うと何度も首を振る。
息吹も対抗するように何度も首を振って、酒呑童子を憎もうと努める椿姫を諌めた。
「あなたは神社に戻って下さい。もしまた食べられそうになったら…主さまに守ってもらって下さい。お願いします」
「息吹さん……」
息吹が頭を下げる。
主さまは、抑えきれない愛情を胸に押しこめるようにして、うずくまった。