主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
渋々といった態で屋敷を後にした主様を見送った息吹は、肩にぽんと乗った晴明の手で我に返ってはっとなって笑顔を作った。


「大丈夫かい?」


「父様…椿さんは大丈夫かな…」


「さて効果があるかは定かではないが、試さないよりはいいだろう?」


「はい。父様、私今からお祝いの準備をしますね。きっと成功して帰ってくるって信じてるから」


「そうだね、十六夜もこれで肩の荷が下りるだろう」


屋敷に残る百鬼は最小人数で、山姫と雪男と猫又しか残っていない。

主さまの目がなかなか行き届かない場所に泉があるため、強者は皆出払っていた。

晴明はのんびりした風を装いながら縁側に腰を落ち着けると、散歩から戻って来た雪男から朔を受け取って膝に乗せるとこそりと囁いた。


「息吹から目を離すな」


「目を離したことなんかないし」


「しかし十六夜も酷なことをする。そなたを息吹の見張りにするとはな」


小さく舌打ちをして台所へ消えた息吹を追っていった雪男を見送った晴明は、呆れた顔ですぐ傍らで見下ろしている山姫を見上げた。


「何か言いたそうな顔だねえ」


「雪男だって葛藤してるんだよ。あんたは茶々入れずに今から主さまについて行きな」


「私は非力なのだよ。ここでのんびりしているなのが一番いいのだ」


ーーもちろん非力ではないのだが、山姫は口論を避けて肩を竦めてその場を立ち去った。


息吹は主さまだけの宝物ではなく、赤子の頃から皆が育ててきた宝物。

そして朔は主さまの跡継ぎとなる者。

万全を期して残ることに決めていた晴明は、膝の上で昼寝をしている朔のために、身じろぎもせず扇子でそよ風を送ってやった。

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