主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
息吹はこの日、地主神に本音をぶちまけた。


「地主神様…私…赤ちゃんが欲しいんです。今すぐってくらい欲しいんです。妖と人との間には子供が出来にくいから頑張ろうねって約束したんだけど…私どうしても恥ずかしくて主さまを拒絶しちゃうんです。でも赤ちゃんが欲しくて…どうしたらいいですか?」


もちろん地主神が答えてくれるわけもなく、それも十分わかっていながら言わずにはいられなかった息吹は、桃色の手拭いを大きな石に巻き付けてあげながら深い息をついた。


「悩み事なんて相談しちゃってごめんなさい。若葉が可愛くて傍に居ると主さまとの赤ちゃんが欲しいなって思っちゃうんです。でもこんなこと主さまに言えなくて…。でも頑張ってみます。地主神様、応援して下さい。私、頑張ります!」


結局はひとりで自己解決してしまった息吹は、両手で大きな石を磨くようにして何度か撫でた後、山を下った。


息吹がふうふう言いながら山を下っている頃、百鬼夜行から戻って来た主さまは、庭でおろおろしていた山姫の傍に降りて思いきり顔を歪めた。


「ぬ、主さま…」


「…また来ているのか。追い出せ」


「でも…結界が張られていて近づけないんです。主さま、息吹が戻ってきてしまいます!早く追い出さないと!」


「…お前は雪男の目を引きつけてここから離れさせろ。息吹には胡蝶のことは言うな」


「は、はい」


静に天叢雲を鞘から抜いた主さまは、何もない空間を刀を振り上げて斜めに斬った。

ぱきん、と儚い音を立てて結界が斬られると、抜き身の天叢雲を手にしたまま怒りに身を委ねながら障子を開け放つと――いきなり羽交い絞めにされて素早く障子を閉められた。


「またお前の方が先に戻って来たのね。いいわ、そういうことね。見せてあげようじゃないの」


「胡蝶!俺を、離せ!」


「嫌だと言ったら?お前…私に逆らえるというの?さあおいでなさい。…床に横におなり!」


「!」


思いきり背中を突かれて床に横倒しになると、胡蝶は素早く主さまの腹の上に馬乗りになって妖艶に微笑んだ。


「お前が妻を迎えたと聞いてどれだけの女が泣いたことか。知らないとは言わせないわよ」


「お前は俺に嫌がらせをしに来たのか?とにかく!早く降りろ!…なんだお前のその格好は!」


怒声を張り上げたが、ほぼ全裸の肢体をさらしている胡蝶は恥ずかしがることもなく主さまの両頬を両手で押さえ込んで無理矢理唇を奪った。


そして、恐れていたことが――起きてしまう。
< 96 / 377 >

この作品をシェア

pagetop