主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
庭に回り込んだ息吹は、山姫が庭でおろおろしている姿を見て脚を止めた。
この時間は台所で料理をしているはずなのだが…顔色は真っ青だし明らかに様子がおかしい。
近寄ってみると驚いたように一瞬身構えられて、また脚を止めた。
「母様…何してるの?」
「えっ?あ、いや…なんでもないよ。い、息吹、朝餉の用意を手伝っておくれ。さあ、早く」
「うん、でもその前に主さまが昨日様子がおかしかったからどうしたのか聞かないと。そ、それに…その…言いたいこともあるし」
「ちょ、息吹…!」
顔を赤くした息吹はまた1歩脚を踏み出したが――鼻腔をふわりとくすぐる良い香りに気付いた。
この香りは昨日にも嗅いだことがあるし、一体主さまはどこでこの香りをくっつけてきたのか――
「また良い香りがする。これ何の香りだろ。主さまに聞いてみよっと」
背後では山姫が両手で顔を覆い、しゃがみ込んだ。
息吹はそれに気付かず――障子を開けた。
「主さまお帰りなさい。あのね、言いたいこと……が…………」
「!い、息吹…!」
「あら、あなたが十六夜の嫁?私が想像していたのとは全然違うわね」
――息吹は我が目を疑った。
今目の前の光景は…主さまが見たことのない全裸の女に押倒されて、しかも馬乗りになられて…唇に紅の後を沢山つけた地獄絵図。
思考回路がついていけなくて目を見開いたまま固まってしまった息吹は、主さまが見たことのない美女を押しのけて乱れた浴衣を直さないまま近寄って来ようとしたので、反射的に叫んだ。
「こ、来ないで!」
「息吹、これは違うんだ!こいつは俺とはなんでもなくて…」
「…なんでもないのに…そんなこと…するの…?なにそれ…」
「ごめんなさいね、久々に十六夜と会ったらつい昔愛し合っていた時のことを思い出して熱くなってしまったわ」
火に油を注がれた。
息吹は無言のまま身を翻して、裸足のまま庭に降りて、何も手に持たないまま玄関の方へと回った。
けして息吹に見せてはいけない光景を止めることができなかった山姫は部屋を飛び出してきた主さまと共に息吹の後を追う。
「息吹、話を聞いてくれ!」
「あれはただの性悪女なんだ!主さまはあんたを裏切ってなんか…」
「…………ます」
「え?今…なんて?」
息吹は一瞬だけ脚を止めた。
そして無表情のまま、言い放った。
「実家に帰らせて頂きます!」
この時間は台所で料理をしているはずなのだが…顔色は真っ青だし明らかに様子がおかしい。
近寄ってみると驚いたように一瞬身構えられて、また脚を止めた。
「母様…何してるの?」
「えっ?あ、いや…なんでもないよ。い、息吹、朝餉の用意を手伝っておくれ。さあ、早く」
「うん、でもその前に主さまが昨日様子がおかしかったからどうしたのか聞かないと。そ、それに…その…言いたいこともあるし」
「ちょ、息吹…!」
顔を赤くした息吹はまた1歩脚を踏み出したが――鼻腔をふわりとくすぐる良い香りに気付いた。
この香りは昨日にも嗅いだことがあるし、一体主さまはどこでこの香りをくっつけてきたのか――
「また良い香りがする。これ何の香りだろ。主さまに聞いてみよっと」
背後では山姫が両手で顔を覆い、しゃがみ込んだ。
息吹はそれに気付かず――障子を開けた。
「主さまお帰りなさい。あのね、言いたいこと……が…………」
「!い、息吹…!」
「あら、あなたが十六夜の嫁?私が想像していたのとは全然違うわね」
――息吹は我が目を疑った。
今目の前の光景は…主さまが見たことのない全裸の女に押倒されて、しかも馬乗りになられて…唇に紅の後を沢山つけた地獄絵図。
思考回路がついていけなくて目を見開いたまま固まってしまった息吹は、主さまが見たことのない美女を押しのけて乱れた浴衣を直さないまま近寄って来ようとしたので、反射的に叫んだ。
「こ、来ないで!」
「息吹、これは違うんだ!こいつは俺とはなんでもなくて…」
「…なんでもないのに…そんなこと…するの…?なにそれ…」
「ごめんなさいね、久々に十六夜と会ったらつい昔愛し合っていた時のことを思い出して熱くなってしまったわ」
火に油を注がれた。
息吹は無言のまま身を翻して、裸足のまま庭に降りて、何も手に持たないまま玄関の方へと回った。
けして息吹に見せてはいけない光景を止めることができなかった山姫は部屋を飛び出してきた主さまと共に息吹の後を追う。
「息吹、話を聞いてくれ!」
「あれはただの性悪女なんだ!主さまはあんたを裏切ってなんか…」
「…………ます」
「え?今…なんて?」
息吹は一瞬だけ脚を止めた。
そして無表情のまま、言い放った。
「実家に帰らせて頂きます!」