彼氏がいるのにマラソンで…
ある長距離ランナーの性
私の名前は大納言 真紀子。元陸上部でマラソン超好きオトナ女子である。

ごめん。マラソンよりも好きなものはある。それは、料理。凝り性な私は毎回計量カップとストップウオッチとメモ帳をにらみながら独自のレシピを微調整する。そういう試行錯誤の後に必ず訪れる達成感たるやない。数字は嘘をつかない。

ごめん。それよりも何よりも食べることが好きだ。だから私は走る。


最初はカロリー的な意味ではじめたマラソンであったがそのうち食べたいから走っているというより、たくさん走るとたくさんおいしいという事を発見して、食べることが好きということと完全にセットになり切り離せなくなったわけだ。


そんな花より団子。色気より食い気の私にも、とうとう旭化成陸上部に所属している彼氏ができた。
彼氏というものがどういうものかわからないが、父よりも兄よりも仲がいい彼の名前は、躁 猛猛という。変わった名前。
一度その名前について聞いたことがあったけど、「そっち? そっちは、たけしでいいよ、たけしたけし」とじゃまくさそうに言った彼の父の発言を、真に受けた母が猛猛と二回メモを取ったという。そういう事らしい。

その猛猛とは何回か食事をして、お茶をして、一緒に走ったり、映画を見たり。買い物に出かけたりしたのだけど、いやらしい関係には発展していない。彼は見かけ通りのメガネと七三の似合うまじめな人で、私も私とてショートカットでガリガリというなんとも面白味のない身体をしておるわけで、そういう2人がどのタイミングで……とか、たまには思うわけだけど、そういうふうにならないということはどちらかが、もしくは両者とも、そういうことに期待していないと、そういうことなのかなと思う。



明日にあるモスクワオリンピックの代表選考レースに備えて最終調整の為に私の所属するピップエレキバンと旭化成の合同練習があり、初めて彼氏の沢山のチームメイトと私は会って、彼が私を紹介してくれた。

のだけど、そんなことよりも彼氏が2人いるのでビックリした。目が、おかしくなったのか目の前に【同じ人間】がいるのである。

「真紀子さんどうしたんですか? おかしな顔して」と、左側の彼が言う。

「へっ? いや、なんでもないです」

「そんな風に見ても3Dには見えないって」

と右側の彼が言う。

私はどうにか2人の奥の方を見ることで立体的な1人として見れないものかと、自分なりに一生懸命寄り目にして頑張っていていたのをこの右側の彼は一瞬で見抜いたのだ。

右側の彼の名前は躁 茂。

彼の双子の兄だ。

千文字を超えた。関係ない。

続きます。
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