彼氏がいるのにマラソンで…
「お、お兄さんですか?」

大げさに驚いて見せた。初めて聞いた。

なんでも双子であるということをあまり話したくはなかったそうで、聞かれれば答えたけど自分から話すのはなんだか抵抗があるんだよねと笑うから、区別が付かないのでマジックを借りてオデコに猛2と3人で笑いながら書き込んだ。
こういうときにサッとマジックが出てくるお兄さんのセンスの良さというか間の良さに私は知らず知らずのうちに引かれていたのかもしれないといいわけをしておく。

スタートのピストルが鳴り、全員が走り始めた。
オデコに猛2と書かれた方の彼と一緒に走り始めたが、まとまりの中から勢いよく飛び出したのはオデコになにも書いてない方の後ろ姿。

私はその彼の走り方に一発で惚れてしまった。


当時の日本では比較的小さい歩幅で脚を速く動かすピッチ走法が主流であり、私を含めた周りのみんな、もちろん隣の彼もせかせかとせわしなく走っている。

その姿とは対称的な大きな歩幅で飛ぶように駆け抜ける姿に、それとスタート直後、黒山の人だかりから引きちぎられるようにして飛び出す積極的で大胆なレース展開をする彼にどぎもをぬかれた。本番前の調整のレースなのよ?

彼の走り方はストライド走法といって(ストライドそうほう)とは、長距離走で、ストライドの幅(歩幅)が大きい走法のこと。

全身の筋肉をバネのように使って飛び跳ねるように走るその優雅なスタイルは、そのぶん身体的負担が大きいと言われる。
また、この走法は長身で脚の長い選手でなければ大きな効果が期待できない。これをオデコ無印の彼は完全に自分のフォームにしていたのだ。

見たい。

あの美しいフォームを、もっと近くで見たい。

< 2 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop