指先で紡ぐ月影歌
知っているからこそ、これ以上彼の意志を拒むことは出来ない。
そんなこと、していいはずがない。
「…必ず、お届け致します」
ぐっと滲んだ涙を裾で拭い吐き出した声。
それは絞り出してやっと聞こえる程度の小さなもの。
それでもその声は確かに土方のもとに届いた。
「あぁ。頼んだぜ」
この刀は途中の旅費に使え。生きるためなら、他のも売って構わねぇ。
そう言って、我が子を愛でるように鉄之助の頭を撫でてやる土方。
少しばかり乱暴なそれは、想像以上に暖かい。
口元には柔らかな笑みが浮かんでいて。
それは今までで一番綺麗な微笑み。
その表情に自然と鉄之助の唇も弧を描く。