指先で紡ぐ月影歌
「貴方が来てくれて…生きて辿り着いてくれて、きっとトシも喜んでいるはずですよ」
そう言って柔らかな笑みを浮かべた彦五郎。
それが、最後に見た土方の微笑みと重なって見えて。
声が、今もなお耳に残っている土方の声と重なって聞こえて。
その一言を聞いた瞬間、ぐにゃりと歪んだ鉄之助の表情。
そして瞳からはとめどなく涙が溢れだした。
走り続けたこの三ヶ月あまり。決して、楽な道ではなかった。
残党狩りをする官軍(新政府)に見つからぬよう、誇りの誠を身に付けることも出来ず。
時には迫る追っ手を撒いて命からがら此処まで辿り着いたのだ。