ボレロ - 第一楽章 -


それにしても、父は何を考えているのだろう。

一度は見限ったはずの相手をまた誘い込むような真似をするなど、これまでの

父のやり方からは考えられないことだった。

それほど 『サクライ』 の力は回復しているのだろうか。

将来的に有望であると先見の明を持って判断したのか、私にはわかりかねる

ところだった。


宗もそんなことを言っていた。

企業には影の部分がある、それが表に出たときどう対処するのか、どこまで

跳ね返せるのかだと。

『サクライ』 はこんなことで撤退するような会社ではない、

必ずのし上がってくるはずだというのが彼の評価だった。

宗に聞いてみよう、何か情報を持っているに違いない。

昨夜遅くまで一緒だった彼の背中を思い出しながら、私は社長室のドアを

あけた。




背格好の良く似た二人が同時に私を振り返った。

今朝も目にしたツーショットだが、会社という男性には戦場ともいえる場所で

見せるスーツ姿は、家で寛ぐ姿とは一変する。

父と叔父とは長兄と末っ子だが、兄弟の中でも仲が良く、十数歳の歳の差など

ないように互いの立場を認め合っている。

みなの到着を待ちきれず先に話が進んでいるのか、私の姿を認めると二人とも

すぐに書面へと目を戻した。

担当責任者の到着後、円座のテーブルで会議が始まり、知弘叔父から現在の

状況の説明がなされた。

海外の商品を扱う仕事柄、叔父の情報網は確かだ。

名目上役員として名を連ねているだけだなどと、母親違いの叔母たちなどは

聞きかじった噂で口さがないことを言っているが、それは知弘叔父の本当の

姿を知らないだけだ。

父は叔母たちのように、差別を持った目で人を判断することはない。

自分の信念に基づき、時には厳しいとも思える判断で事を進め、何かと

うるさい親族の口を封じ込めていた。


私もいつか、父と同じ立場に立つ時がやってくる。

果たして、父のように毅然とした態度で決断していけるのだろうか。 

それには、私を信じて支えてくれるパートナーが不可欠だった。

表向きは私の夫となった人が舵を取り、一族の面倒なことは私がさばいて

いかなければならない。

その相手に、父はふたたび櫻井さんを選んだのだろうか。

叔父の話を聞きながら、私は自分の将来をぼんやりと描いていた。





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