私だけの王子様

手作りクッキーを渡せ

予想していた以上に高鳴る鼓動に自分でも驚いた。
今、私がいるのは悠斗の教室の前だ。
昨日、沙耶と作った手作りクッキーを渡すためだ。

沙耶は「千夏が一人で渡して来ないと意味ない!可愛く渡しておいでよ!」なんて無責任な事を言っていた。

なんでこんなに緊張するの?
そう思いながらも覚悟を決めて悠斗の教室に入り悠斗を探した。
いや、実際は探すまでもなかった・・・。

一際目立つ女子の大群。
そんな女子に囲まれているのは・・・悠斗だ。
こんな時って何て声をかければ良いんだろう。


「あ、千夏ちゃん!」


声をかけなくても悠斗は私に気づいたようだ。
何だか、ほんのちょっぴり嬉しくなった。

悠斗は、いつものキラキラな笑顔でやって来る。
私は、この注目された教室の中で手作りクッキーを渡すのはさすがに恥ずかしかった。
だから悠斗を誰もいない階段へと連れ出したんだ。


「千夏ちゃん、おはよう!どうしたんですか?」

「えと・・・その・・・。ほら!悠斗が食べたいって言ってた手作りのを・・・。」


男の子に手作りクッキーを渡すだけでこんなにも緊張するんだ。
・・・“男の子”じゃなくて“悠斗”だから?


「もしかして手作りの料理を作ってくれたんですか?!」

「料理っていうか・・・お菓子だけどね。でも甘くなくて悠斗でも食べられると思うよ!クッキーだから・・・!」


そして、さっきからずっと手に持っていたクッキーを渡した。


「千夏ちゃん・・・キスをしても良いですか?」


クッキーを受け取ると顔を赤くして尋ねてくる悠斗。
待って・・・!キス・・・?!
頭の整理がつかないまま、私はその悠斗の顔に断れる事なく、コクンと頷いた。


「じゃあ・・・」


悠斗がそう言った後に重なった唇。
優しくて優しくて本当に悠斗らしいキスだった。
だけど・・・私の目から大粒の涙がポロポロと溢れ出してきた。
理由なんてわからない。

だけど涙が止まらなくなってしまった。
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