私だけの王子様

溢れた涙の理由

「・・・あっ・・・。千夏ちゃん。スイマセン。嫌でしたよね。本当に勝手にキスなんか・・・。」


悠斗が勝手にキスをしたんじゃないよ。
私が断れなくて、ちゃんと頷いただけだよ・・・。


「千夏ちゃん・・・。今度の日曜日で僕が約束した一ヶ月は終わります。だけど・・・もう終わりにしましょう。」

「ど・・・うして?」

「千夏ちゃんの涙は見たくありません。僕のせいで零れた涙なら、僕は・・・千夏ちゃんを諦めます。」


え・・・?
悠斗が震える声で言った言葉に私の涙は丸で枯れたように止まってしまった。

その瞬間に、頭の中を過ぎる記憶・・・。

悠斗と一ヶ月だけ付き合う事になった日。
アイスクリームを食べたり、悠斗がオススメの料理屋さんに行ったり本当のカップルみたいに思えるようなデートをして来た。

本当に楽しかった事しか覚えていない。


「千夏ちゃん・・・。クッキー、嬉しかったです。ちゃんと食べさせて頂きます。」

「・・・悠斗?」

「千夏ちゃんと少しの時間でも、お付き合いさせてもらって楽しかったです。・・・では。」


その言葉を残して悠斗は私の前から姿を消してしまった。
心の中に残る気持ちはまだモヤモヤしたまま。

今度の日曜日で、もう一ヶ月が経つんだ。
長く思えない短い一ヶ月。


私と悠斗の期間限定の恋にピリオドがついたのは約束の一ヶ月ではなく一ヶ月よりも一週間早い今日だった。
涙が零れた跡をハンカチで拭き自分の教室へと戻った。


「あ!千夏ー!立花くん、どうだった?!」

「別れちゃった・・・。」


ポツリと呟いた言葉に沙耶は嘘だと思ったのか「もぉ、またまた冗談言っちゃって~。」と笑って言った。


「本当だから・・・。」


そして沙耶に、さっきの出来事を話した。
今は誰かに聞いて心を落ち着かせたい気分だったから。
全て話し終わると沙耶が一言、私に言った。


「千夏は、このままで良いの?」
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