被写体


言いながら、彼の後に続くと、そこには誰もいなかった。


「え…?」

どういうことなのか、聞く間もなく、私は彼と閉じたばかりの扉の間にはさまれる。

「ねぇ、何で俺のことずっと見てたの?」


彼の声音にはからかうような響き。

思わず息を呑んだけど、努めて冷静に返す。


「…退いて下さい」

「嫌だ」


いたずらっ子のように笑う、その表情に、私は惹きつけられた。


「…またそんな顔して」


軽く眉を潜めるその顔もいいと思った。

そこで、自分の中の欲望に気付いた。

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