嘘付きな使用人
第一章

使用人急募


桜が6分咲きを迎えた3月の終わり。

私立桜ノ宮高校の理事長室の前には1人の少女が立っていた。
黒髪を一つに縛りおしゃれには興味がないのかヨレヨレのTシャツにGパンというみすぼらしい出で立ち。

手には履歴書と求人情報誌の入った鞄をぶら下げ今まさに扉を叩こうとしていた。

「失礼しまーす。
 求人情報誌を見て電話した清水彩シミズアヤですー。」

間延びしたやる気のない挨拶。
その挨拶を聞いて出てきた中年の男性も少々戸惑い気味である。

「えーっと…初めまして。
桜ノ宮高校理事長の小野寺です。
とりあえず中にどうぞ。」

掛けてくれと言われたソファーに少女は浅く腰掛けた。

「あー…電話では18歳って聞いてたんだけど…清水さんだっけ?
絶対18歳じゃないよね?」

小野寺の問いに清水と名乗った少女は焦りをみせる事なく飄々と答える。

「条件に18歳以上って書いてあったので18歳になる事にしました。」

「なる事にしたって…本当は何歳なの?」

「だから何歳でも大丈夫です。」

小野寺は清水の答えに溜め息を盛大についた。

「…分かった。
何か身分証明書ないかい?
中学の時の学生証でも何でもいいから。」

「あーないっすねー。」

「ないって君ね…。
保険証とかは?」

「ないっすねー。」

相変わらずやる気のない返事。
苛立ち始める小野寺。

「じゃあ住民票でも戸籍謄本でもいいから。」

「あー私所謂無戸籍児なんすよ。
だから何歳でも構わないんです。」

少女の言い方はまるで今日の天気について話しているような雰囲気。
反対に小野寺は動揺を隠しきれない。

「えっ!?ちょっと待って!?
さっき中学の時の学生証もないって言ってたけどもしかして中学行ってないのかい!?
小学校は!?」

「行ってないっすよー。」

「病院はどうしてるんだい!?」

「10割負担ですねー。」

小野寺は思わず頭を抱えた。

「変な事聞くけど…ご両親は何故出生届を出さなかったんだい?」

少女は小野寺が出したコーヒーを飲みながら首を傾げる。

「さあー?
9歳の時に別れてそれっきりですからねー。」
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