嘘付きな使用人
清水はお茶を入れてくれている翔を横目で見つつ、箸を止めた。

「…昨日の質問だけど。」

「ん?
答えてくれるの?」

「助けて貰ったしヒントだけ。」

清水は自嘲気味に口角を上げる。
自分でも何で答えようと思ったのか分からないのだ。

「…清水彩って名前は新聞屋の爺がつけてくれた名前なんだ。
親につけて貰った名前は無い。」

「…名前がない?」

「そ。『私だけの呼び名』が無い。
私が名前がなかった頃に家庭教師に勉強させられてたんだ。
義務教育を受けてないとは言ったけど、小2までの2年間は通ってた。」

「名前がないのに…学校に通ってた?」

清水は言葉を切り上げニヤッと笑う。

「これでヒント終わり~。」

「…僕焦らされるの好きじゃないんだけどなぁ。」

そう溜め息をつく翔を見て悪い笑みを浮かべる清水。

「あっもう1つだけ答えてくれないかい?」

「なにー?」

「清水さんは、僕に出会った記憶ある?」

清水は腕を組み悩む。

「…ないよ。」

「…じゃあ記憶違いかなあ?」

『私は、会ってない。』

「私はって…?」

清水はソファーから立ち上がり体を伸ばす。

「それは自分で考えてくれたまえ~。」

「そうだね。
分かったら清水さんに推理を披露させて貰いに行くよ。」

清水はケラケラ笑うと翔の目を見て言う。

「ヒント出したんだから分かっても他言はするなよー。」

「了解。
正直手詰まりだったから他言はしないよ。
でもどうしてヒントくれる気になったんだい?」

「…あんたなら多分、このまま答えに辿り着く気がしたからさ。
それならヒントでもやって借りを作って黙っとかせようと思って。」

「あーなるほどね。」



< 37 / 41 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop