竜王様のお約束
この10年の間、ハク様とヤヨイ様に代わり、手塩にかけて大切に大切に、お育てしてきたリョク様を、黒龍なんかに渡してなるものかと、エミはその腕に力を込めた。


「な、何と言う事を!
そのような事は、このエミが許しません。
黒龍などに大切なリョク様を、会わせてなるものですか!」


「もうエミったら、大丈夫よ。
母様と父様の事を聞きたいだけなの。」


ヤヨイを思わせる、向日葵のような頬笑みを浮かべて、リョクはゆっくりとエミの手をほどく。


腰が抜けているのか、エミは立ち上がる事ができずにいるようで、膝を崩して座ったまま、リョクにすがった。


「ダメです。リョク様いけません。
シキ!シキ!どこに居るの?
リョク様をお止めして!」


今にも泣きだしてしまいそうな声で、エミはリョクに訴えた。


・・・その時である。


屋敷の門をくぐって侵入して来た大きな黒い影が、リョクに向けて遠慮がちに声をかけてきたのだ。

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