竜王様のお約束
ジュウサン
炎を連想させる、紅で彩られた現竜王の部屋には、不穏な空気が渦巻いていた。微妙に異なる赤・朱・緋・橙が折り重なる妖艶で神秘的な空間は、いつもとは違うピリピリとした雰囲気を歓迎してはいなかった。しかし、最早ここまでと、臨戦態勢を前面に打ち出している主を包み込むかのように、静寂を決め込んでいる。


その静寂を破ったのは、他ならぬこの部屋の主であった。


「では・・・。
避けては通れない話し合いを、始めるとしましょうか。
私は覚悟を決めましたよ、兄上。
私がもう竜王でいられないことは、分かって頂けますよね?
兄上はこの通り生きておられるし、お姿も目撃されているんですから。
ハクリュウ王陛下ご存命の噂は、既に天界に広まっているはずです。
こうなった以上、きちんと住人たちに事情を説明した上で、兄上は竜王に復帰してください。
それが叶わないのであれば、ほかの誰かを次期竜王に据えてから、天界を去ってください。
この現状の後始末ができるのは、ハクリュウ王陛下しかいません。
私の意見に耳を傾ける住人など、今更いないんですから。
私にはもう、どうすることもできないんですよ。」


「コウリュウ。」


「いくら兄上に凄まれても、私はこの意見を曲げるつもりはありません。」


一歩も引かないという、硬い決意が見て取れる、コウリュウの真剣な眼差し。ハクリュウは柄にもなく、ふぅぅと長く息を吐いて体の力を抜いた。
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