竜王様のお約束
今日は、散策を兼ねての屋敷近辺の視察だったため、ハクリュウは徒歩であった。


粗方の視察が終わり、屋敷へ向かっていたハクリュウは、お供の者達と別れ、1人になるや否や、綺麗に手入れされた屋敷の庭園を全力で駆け抜けた。


「ヤヨイ?ヤヨイ?」


慌ただしく屋敷の中に入ると、ハクリュウは愛しい妻を探す。


「とーたま。どうしたの?」


通訳が必要なほど、たどたどしい言葉遣いの女の子の声が、ハクリュウを呼び止めた。


「おぉリョク(緑)。
ヤヨイ・・・母様はどこだい?」


リョクとは、3歳になるハクリュウとヤヨイの子供である。


“たまご”ではなく、正真正銘人間の姿で生まれた女の子だ。


ただ、生まれた時両肩に、エメラルドのように輝く緑色の鱗が数枚付いていた。


髪の色も、新緑が芽吹くような深い緑色だったため、天界の風習に倣い、子供の名前はリョクリュウ(緑龍)と付けた。


しかし、ハクリュウは自分と同じく、リュウは省いて呼んでいる。


この先、リョクの龍としての能力が、開花しなければいいが。


目下ハクリュウの、懸念すべき事柄であった。


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