竜王様のお約束
まさかそんな兄が、この部屋を訪ねて来ようとは、努々思いもしないコウリュウは、一仕事終えて疲れた体を、大きな深紅のソファーに投げ出していた。


今や王の間となった紅い部屋は、より一層豪華に彩られ、竜王陛下の住まう場所として、相応しいものに改装されていた。


竜王崩御の一報から、天界の時間にして、まだ1ヶ月程しか経ってはいない。


着々と進む、竜王への正式な戴冠の儀式を前に、コウリュウは兄の竜王としての存在意義を思った。


『兄上は民にとって、どんな存在だったんだろう。』


天界のためという、揺るぎない己の信念を胸に、最後まで孤独な独裁者で在り続けた兄。


ヤヨイとの出会いが、その兄を、孤独な竜王から解放させた。


あんなに、生き生きと表情を変えるハクリュウを、弟であるコウリュウでさえ、長いこと忘れていたのだ。


生気を得るため、そして民に分け与えるため、人間界から連れて来た巫女・・・のはずだったヤヨイ。


そのヤヨイの瞳を思い浮かべ、コウリュウは苦笑する。


『コハク。
本当のさよならの時が来たようだ。
俺は、妃を迎えるよ。
民に生気を分け与えるという、役目があるんだ。』


コウリュウはソファーの上で、所在無げに体の向きを変えた。
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