恋の扉をこじあけろ


迷った挙句、気づいたら松居先生とテーブルを挟んでフォークを握りしめていた。


「偉いな。ちゃんと来たか」


「好きで来たんじゃありません」


来ないと嫌な予感がしたから来ただけで、誰が好きでこんな奴と食事をするもんですか。


目の前の鶏肉を、フォークでグサリと突いた。


「話があるんでしたよね。さっきからつまらない世間話ばっかりじゃないですか。いい加減帰りますよ」


「君ね、デートのときにつまらないとか間違っても言うんじゃないよ。大抵の男は傷つくから」


「これはデートじゃありませんから遠慮いらないでしょう」


そう言い放つと、松居先生は少し肩を竦めてお皿の上に視線を落とし、おとなしく食事をはじめた。

それを眺めながら水を飲んだ。


「…松居先生はいつからわたしが幸宏の元カノだってわかったんですか」


なかなか本題に入ろうとしないから、我慢できずにこちらから切り出してしまった。

松居先生はニヤリとしながら顔をあげた。


「電話で話したときだよ。俺は誰かさんと違って記憶力がいいから」


「声を覚えていたっていうんですか?前にたった一度、電話で話しただけなのに?」


「あのときの出来事は刺激的だろ。記憶に残るには申し分ないできごとだと思うけど」

< 139 / 278 >

この作品をシェア

pagetop