恋影




「…………。」


娘を引き取った以上は自分の家で面倒を見なければならない。


とにかく咲子が過度に、少女に当たらないように注意するほかないだろう。


とはいうものの……、


ほとんどの雑用を少女は押し付けられていた。


洗濯に掃除、草むしりまで、家事の一切を彼女がこなしていると言っていいほどだ。過度の事がない限り、武市が口出すことが出来なかった。



「【薫子】。薫子ー。」


夕御飯の時間になっても来ない薫子を捜す武市。


咲子の扱いが自分の知らない所で、ますます酷くなっていないか、最近はそれが心配で堪らない。ご飯の時間になっても来ない時が多くなっていたのだ。


きっとお腹を空かせているに違いない。


武市は家中を捜し回る。



ガッシャーン!!



「!」


食器が落ちる音と咲子の怒鳴り声が聞こえてくる。武市は慌ててその部屋へと入った。


「!!」


そこには散乱されたお膳と、倒れている薫子の姿があった。


「薫子!」


慌てて薫子に駆け寄る。


叩かれたのか、頬が真っ赤になっていた。


「……何があったのだ?」


「勝手に転んだのよ。」


「お前ではない!薫子に聞いている! 何があった……?」


「……転びました。」


「転んだ……?」


とてもじゃないが、転んでつくる怪我ではない。


「……きちんと片付けておきますので、心配しないで下さい。奥様もすみませんでした……。」


深々とお辞儀をし直して謝る薫子。


そうしつけられたのだろうか……。


「さっさと片付けておしまい!!シミにしたらただじゃあおかないよ!!」


咲子はそう激しく言い放つと、さっさと部屋から出て行ってしまった。


「………。」


薫子は黙って片付けを始める。


それにしても、どこか薫子の様子がおかしい。


手足が異様に震えている。


それに……、


「!」


突如、武市が薫子の腕を掴み、袖を捲り上げた。


そこには、生々しい痣がいくつも出来ていた。


「……薫子!これはいったいどうした!?また咲子からやられたのか!?」


「……旦那様には関係ありません…。」


「旦那様……? 何を馬鹿なことを言っている?!お前は僕達の子供なのだぞ!なのに……!」



咲子……。



先程も咲子に奥様と言っていた……。


と、なれば……。



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