恋影
「え……?」
「ここを出る時に、以蔵にも同じことを言われた。表に出るのは危険だと…。」
「………。」
「ですが、こんなふうに出るのも悪くはない……。」
「え……?」
「ただの独り言です。それよりも、君には後でたっぷりと言いたいことある。ひとまず、寺田屋へ戻りますよ。」
「はい。」
武市について白鳴は歩き出す。
差し込む月明かりだけを頼りに歩いて行く。
「………うわっ!」
「!?」
何かにつまずいたのか、転びそうになる。武市は慌てて白鳴の身体を抱き留めた。
「……あ、ありがとうございます。………!」
思わず見上げた顔の先に、武市の顔が合った。目と目が自然と重なりあってしまう。
「……す、すみません…!」
白鳴は動揺を隠すように、すぐに武市から離れた。
「いや……。」
「………。」
いきなりだったから驚いたが、動揺していることに気づかれなかっただろうか。
白鳴はチラリと武市を見ると、何やら武市がじっと自分の手の平を見ていた。
「………?」
「……!」
白鳴の視線に気づいたのか、武市が慌てて前を向く。
「……行きますよ。」
そう言うと武市は歩き始める。
一瞬だったが、顔が赤かった気がした。
ようやく、無事に寺田屋へも戻って来ることが出来た。
到着するやいなや、龍馬達が飛び出して来る。
「白鳴さん!無事か…?!」
「龍馬さん?」
「戻って来たら、白鳴さんがおらんくなっとって、聞いてみたら、武市と二人きりでいなくなった、と聞いたからのう!」
「……!」
二人っきりって……!
それは少し意味が違う気がする。
「やい 武市!おまん まさか白鳴さんに何もしとらんじゃろうな!?」
「していたら、どうだと言うんだ?」
「そ、それは……!」
押し黙ってしまう龍馬。明らかに動揺しまくっている。
「武市さん 姐さん、お帰りなさい。二人が無事で良かったッス。なかなか帰ってこないから、心配していたんッスよ?」
「ああ、すまなかった。」
武市は草履を脱いで、何事もなかったように、中へと上がる。
白鳴もそれに続く。
すると、少し遅れて出迎えに出て来た以蔵と会う。
「師匠、お帰りなさい。」
「ああ。」
「…………た、ただいま戻りました。」