†captivity†(休載)
母は記憶から探り出すように視線を彷徨わせる。
「今まではトゲトゲしてたり、表情を表さなかったり、毎日つまらなそうにしてたって。でも和歌、あなたがいい影響をもたらしてくれたって、理事長先生から聴いたわ」
確かに、彼は素直だとは言えない性格だ。
何を考えているのか読めないし、突然予測もしないことをしてきたりする。
つまらなそうな表情はあまり見たことがなかったと思うけれど……緒方先輩に、あたしが影響を……?
確かに表情が豊かになってきたのは、自分でも感じる。
それが自分の影響だと言われても、疑ってしまうけれど。
「影響を与え合ってる分、息子さんは問題児だから和歌が疲れてしまうことがあるかもしれない、と伺ったわ」
あたしは……疲れているのだろうか?
「まぁお友達関係には口を出す気はないけれど……」
そう言ってから、母はあたしの肩をぽんぽんと、2度優しく叩いた。
「和歌、ごめんなさいが多いわ。感情に振り回されている時は、無意識に負担になってる事があるの。楽しいことでも悲しいことでもね。少し休みなさい」
そう言ってまた、お母さんはあたしの頭を撫でるけど。
でも、でも。
「あたし……その……」
言い難いが、言い難いけれど、でもきちんと説明しなくてはいけないと思った。
心配させていいような理由じゃない。
浮かれていてこんな失態をしてしまうような自分……それが許せなくて。
「あの、ね、その理事長の息子と……付き合うことになったの……」
後ろめたい気持ちから、母の顔を見ることが出来ない。
言ってしまったけれど……どう思われるのか、正直わからなくて怖い。
「その、ごめんなさい、全然大きな悩みとかがある訳じゃなくて……」
「そう、なの……?」
その目を真ん丸くして驚く表情を見て、言っちゃったぁぁぁ!!と心の中で叫ぶ。
怖い、怖い怖い怖い、筋肉が強ばる、手先から冷えていくような感覚がする。
自分はこんなに怖がりだっただろうか?
不安がいつもより強く感じる。
「驚いたけど……でも、そんなに怯えなくて大丈夫よ、怒らないから」
「……ごめんなさい」
「ほら、また。……でも、そうなのね……うん、そっか、大きな変化ね」
そう言って、母はあたしをぎゅっと抱き締めた。
母にこうして抱きしめられるのは、一体いつぶりだろうか。
ふっと、ガチガチに固まった緊張の糸が解けると共に、頭に重みが集まるように感じ、感情とは関係のない涙が溢れる。
緊張が緩んだ瞬間、疲労感が重くのしかかってきた。
なんだか……以前見た事のある知歌の様子に、似ていた。
「和歌は頑張っていたわ。知歌にはきっと、和歌のムチャしてる姿もわかっていたのかしらね。学校には連絡入れてあるから、今日は休みなさい」
母の言っていた『疲れ』の意味を、ようやく身をもって知った。