†captivity†(休載)
待って、だから、ダメだって。
東先輩も奏多くんもいるんだってば。
とっさに顔を下に向けるが、彼はそのまままた額へと口付ける。
そして今度はもう片方の手で前髪をずらし、また顔が近付いて――
「なんだこれ?」
そして、例の額をぶつけた痕に気付かれてしまったのである。
「あ。」
「あ?」
雰囲気ぶち壊しもいいとこだが、今回ばかりはいい仕事をしてくれたと思う、額の打撲痕。
だがしかしそんなにわかりやすく酷い状態になっているのだろうか?
まだ鏡で確かめていないため、気になって仕方がない。
「それ、自業自得の傷らしいから、大丈夫だよ」
その声に、向かいのソファーにいる声の主を見ると、ようやく顔を上げて不機嫌そうな顔を見せていた。
「……傷、知ってたのか」
「玄関から外に出た時、風で一瞬靡いて見えたんだよ」
あの時気付かれたのはそういう理由だったのか……!!!
ここに来てようやく一つ謎が解けたがしかし、先程まで項垂れていた理由が謎のままだし、それをようやくやめた理由も謎なので結果として謎が増えている。
彼の行動を理解することなんてあたしには到底無理だ、諦めよう。
「青黒くなってるぞ」
「嘘……!?」
忘れたまま気にせずここまで来てしまっていたという失態はあるけれど、それでも彼氏に青黒くなっている額を見られるのは今更ながらに抵抗があった。
今度からこういうことにも気を付けないといけないのだと、和歌は学習しました。
せめてファンデーションの一つも持ち合わせていれば隠せていたかもしれないのに……不覚。
「さっきより酷くなってるかもね」
スッと立ち上がった東先輩はキッチンへ行き奏多くんと少し話した後、お風呂場の方へ行った。