†captivity†(休載)
そっと手を伸ばし、前髪を上げてきた心くんに、一瞬戸惑う。
「額、大丈夫そうだな」
「……あ、はい。ありがとうございました」
その柔らかい笑みを、慣れていないからか、なんだかむずがゆく感じた。
氷の袋を片付けてくれた奏多くんが戻ってくると同時に、そんな思考は放り投げて、テーブルに並べられた料理を眺める。
トマトクリームのパスタにサラダ、スープまで付いていた。
東先輩は相変わらず本を読んでいたけれど、あたしが起きた姿を確認すると本をしまう。
机の上にずらりと並べられている料理には、誰も、一口も手を付けていない様子だった。
あたしが起きるのを待っていてくれたのだろうか……?
「デザートに、ムースもつくった、から」
ポツリ、そう呟く奏多くんに視線を向けると、視線を外して照れ笑いしてくれている。
「お祝い、で」
そのフワリとした笑みに、こころがギュンと掴まれる。
え、なに、待って、かわいい、待って、写真撮っていいですか。
「ありがとう、奏多くん」
あたしは割と欲望に忠実になる瞬間があり(可愛いは正義)、鞄の中からすっとスマホを取り出し、迷わずホームボタンを二度押ししてカメラを起動させる。
ショートカット機能バンザイ。
「和歌、盗撮か」
「ごめんなさい心くん。ごめんなさい奏多くん撮っていいですか」
「いいわけねぇだろ俺と撮れ」
スマホを向けるあたしに、あたふたと戸惑っている奏多くんもかわいい。
むしろ動画を撮りたいところだ。
ちなみに心くんの邪な言葉はスルーさせていただく。
「その手切り落とされたいの?変態女」
真顔で横から口出ししてきた東先輩のその言葉に、ピシリと思考が停止する。
いちいち言うことが怖いんだよこの人……。